2005年09月02日

かたくり


 その窪地はふくふくした苔に覆われ、所々やさしいかたくりの花が咲いていました。若い木だまにはそのうすむらさきの立派な花はふらふらうすぐろくひらめくだけではっきり見えませんでした。却ってそのつやつやした緑色の葉の上に次々せわしくあらわれて又消えて行く紫色のあやしい文字を読みました。
「はるだ、はるだ、はるの日がきた、」字は一つずつ生きて息をついて、消えてはあらわれ、あらわれては又消えました。
「そらでも、つちでも、くさのうえでもいちめんいちめん、ももいろの火がもえている。」
 若い木霊ははげしく鳴る胸を弾けさせまいと堅く堅く押えながら急いで又歩き出しました。
[若い木霊]より



Erythronium japonicum.jpg


■若さゆえに待ちきれなかったのだろうか。雪がまだわずかに残る早春、若い木霊が眠ったままの木々たちを起こしてまわる。眠りから覚めるにはまだ早い柏や栗の木は、若い木霊の声に応えてはくれない。

■早春、カタクリは、落葉樹の木々が葉を広げる前の柔らかな陽を浴びて、地中から顔を出し花をほころばせ実を結ぶ。そして、森の天井がすっかり葉で覆われる頃には、地上から姿を消して再び地中へ潜ってしまう。春の訪れをいち早く告げる「春の妖精」だ。

Erythronium japonicum_bud.jpg

【写真】雪に覆われていた落ち葉を突き破ってこんにちは。春の匂い。



Erythronium japonicum_all.jpg

【写真】木々たちの葉に遮られることのない柔らかな陽射しをいっぱいに浴びて。


■窪地で出逢ったかたくりに、胸が弾けるばかりの春の息吹=喜びを若い木霊は感じたのだろうか。
■「春の妖精」が彩る北国の早春は、何度出逢っても燃えるように美しい。


Erythronium japonicum_Fend.jpg

【写真】カタクリの花が色褪せる。早春の輝きは束の間だ。まだカタクリには、実を結ぶという大切な仕事が残っているけれど。



■カタクリ(片栗)
■学名:Erythronium japonicum
■別名・方言:ホケッキョ、カタゴ
■ユリ科カタクリ属
■撮影地:北海道、岩手県

※関連記事:「賢治が紡いだ花」カテゴリについて

update:2005-09-02
posted by happyisland at 00:12| 岩手 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 賢治が紡いだ花 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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