「(中略)ね、ごらん、こっちのうめばちそうなどはまるで虹のようだよ。むくむく虹が湧いてるようだよ。ああそうだ、ダイヤモンドの露が一つぶはいってるんだ。」
ほんとうにそのうめばちそうは、ぷりりぷりりふるえていましたので、その花の中の一つぶのダイヤモンドは、まるで叫び出す位に橙や緑や美しくかがやき、うめばちそうの花びらにチカチカ映って云うようもなく立派でした。[十力の金剛石]より

■「賢治先生はウメバチソウが好きだったのではないかな?」と思う。賢治作品の「うめばちそ(さ)う」は、美しく、不思議で、愛らしい。
■私は、この白い花を見つけると、秋の訪れを知る。落葉広葉樹の森が虹色に染まる頃だ。
■ルーペを取り出して花をのぞき込む。多くの黄色い玉を先端に着けた仮雄しべは、パッチリと開いたまつげのようだ。笑みをたたえている。広がる小宇宙。巧みな表情に、自然の不思議を改めて実感する。
■このウメバチソウ、実は、几帳面でもある。
■毎日一本ずつ、めしべの上におしべを持ち上げ花粉入りの袋を開いては、翌日、役割を終えたおしべを倒してゆく。
■倒れたおしべに、秋の深まりも刻まれてゆく。

■ウメバチソウは、比較的標高の高い場所に生育するようで、山登りの途中で私は出逢ってきた。
■ウメバチソウの花は小さい。我を忘れて夢中で頂を目指すと、ついつい見落としがちになってしまう。
■ふと立ち止まる。小さく可憐な花に気がつく。のぞき込み小宇宙に感動する。風がそよぐ。碧い空を見上げる。世界が相対化され、自分の鼓動が小さくなってゆく。
ああ、そしてそして十力の金剛石は露ばかりではありませんでした。碧いそら、かがやく太陽丘をかけて行く風、花のそのかんばしいはなびらやしべ、草のしなやかなからだ、すべてこれをのせになう丘や野原、王子たちのびろうどの上着や涙にかがやく瞳、すべてすべて十力の金剛石でした。[十力の金剛石]より

【写真】ウメバチソウのつぼみも愛らしい。赤ちゃんの握り拳のよう。

【写真】秋が長ける頃に
■ウメバチソウ(梅鉢草)
■学名:Parnassia palustris
■別名・方言:バイカソウ、スモフリバナ
■ユキノシタ科ウメバチソウ属
■撮影地:岩手県
ラベル:ウメバチソウ
ウメバチソウですか。(感嘆)…これはこれは綺麗なものを。(^^)
「十力の金剛石」だって読んだはずなのに、
ウメバチソウが出てきたことを覚えていませんでした。
っていうか、植物の名前をろくに知らない頃に読んだせいか、
今になって読み返してみると、賢治先生の作品には、
あちこちにいろんな草の名前が入たんだなぁ…なんて、
(自分の目の節穴っぷりに)びっくりします。
ウメバチソウ♪まだ現物には出会ってないんですよねぇ。
会えたのは、そっくりさんのシラヒゲソウのほうだけ。
ウメバチソウにも会いたいな。
この、仮雄しべのあたりの造形の 精巧で美しいこと!!
一本ずつ開いていく おしべのしくみの丁寧なこと!!
自然が作り出すものって言うのは、見事なものですねぇ。
いつもコメントをありがとうございますm(__)m
賢治作品に植物が数多く出てくることを意識し始めたのは、僕も岩手に来てからですよ。森を歩く時と同じように、見方によって、見つかる事も様々ですよねぇ。
僕の方はシラヒゲソウには会ったことがありません。そこで、はもようさんのブログを読ませていただきました。花の構造が詳しく書かれていて、すごい!ウメバチソウに比べて花びらが派手ですね。プレスリーの腕の下のヒラヒラを思い出した・・・・
ホント、自然は見事。感嘆します。忙しない日々が続いたので、そろそろそんな時間も持ちたい!と思っていたら、冬がすぐそこになってしまった(^^;)